~エッセイ~私たちの労働・生活・社会
その6 派遣法改正のゆくえ (2010.12.23記)
派遣法の改正は、画期的な派遣村の営みのおよそ1年あまり後に、なお多くの問題点を残しながらも成案となり、2010年のうちには成立するはずであった。しかしそれは今、野党、産業界、保守系マスコミなどの煽る逆風を受けて、風前の灯である。
改正派遣法案の骨子は、(1)専門26業種をのぞく一般労働の登録型派遣の原則的禁止、(2)「常用型派遣」をのぞく製造業業務派遣の原則的禁止、(3)禁止業務への派遣や偽装請負などの違法があったとき派遣労働者が派遣先企業に労働契約を申し込んでいたものとみなす「みなし雇用制度」の導入、(4)2ヶ月以内の日雇い派遣の原則的禁止、(5)登録型派遣・製造業派遣の原則的禁止は3年以内、とくに問題のない場合はさらに2年まで施行猶予・・・であった。リーマンショック以降、過酷な体験にさらされた派遣労働者にとって、これはなお不十分な最小限の保護規制にすぎない。法案はそれゆえ、当初から派遣労働者に寄り添うユニオン、労働組合、労働弁護士などによる、次のようなさまざまの角度からの批判をまぬかれなかった。
- 一般労働の派遣が認められる派遣会社の常用雇用には、短期契約を反復して過去1年を超えて雇われているか、1年以上の雇用が見こまれるもの、要するに不安定な非正規雇用もふくまれる。例外適用は無期雇用者に限定されるべきである
- 「専門26業務」には、今では実質上「一般労働」というべきいくつかの業種がふくまれる。事務用機器の操作、ファイリング、マネキン、建築物の清掃、テレマーケティングなどがそうだ。だから専門業務という名目で雇用されて、事務や販売の雑業的な下位職務を命じられることもままある
- みなし雇用制度によって派遣先の直接雇用になっても、同一賃金同一賃金の規定はなく、待遇は有期雇用・非正規のままで、賃金は派遣社員時代と変わらない
- 派遣先企業が「知らなかった」ら、違法性も問われず、みなし雇用の義務もない
それゆえ、たとえば、献血センターに「事務用機器操作」で登録派遣されながら仕事の7割は献血の呼び込みや受付、そのまま3ヶ月で契約切れになった34歳の女性。所属する派遣会社が変わるだけで3年以上同じトラックメーカーで働いた末に、容赦なく派遣切りに遭った38歳の男性。やはり登録型派遣・「事務機器操作」の形式で5年8ヶ月も一般事務に携わりながら、派遣先に契約期限の日が通知されていなかったという理由で「みなし雇用制度」の申請を却下された29歳の女性(朝日新聞2010.4.22参照)──たとえ派遣法改正が実現したとしても、このような受難は後を絶たないだろう。改正派遣法は、上の問題点を是正する方向でさらに改正されるべきだとはいえても、決して後戻りしてはならない状況改善の第一歩なのである。
にもかかわらず、まさに政局の混迷を奇貨としてバックラッシュの勢力は、次のような論陣を張る。曰く、派遣法改正は、(1)趣味を生かして「軽やかに」働く人や自由な時間に働き家庭生活との両立をはかろうとする既婚女性の雇用機会を奪う。(2)規制を避けようとする企業を生産拠点の海外移転のいっそうの促進に誘いゆえに失業者が増える。(3)みなし雇用義務の発生直前の契約うちきりが頻発する。(4)多くの派遣労働者も、当面の働き口が狭まることを怖れて派遣法改正に反対している・・・。
反論は容易だ。論点の(1)は、派遣労働の、というよりはパート労働一般のコンビニエンスにすぎない。(2)はどうか。派遣法改正⇒生産の海外移転は限られた領域での可能性であって、一般的には、必要とされる仕事の量が一定であるかぎり、禁止される登録型派遣がいくらかは安定的な常用型派遣や直用の有期雇用に変わるだけである。改正で失業が増えるというのは短絡的な決めつけにほかならない。また(3)労働者の意識については、困窮する労働者が、どんなに不利な条件であっても当面の雇用口を失いたくないと思うのは当然であって、彼ら/彼女らは、もともと望んでいる正規雇用がすぐに増えるわけがないと見据えているからこそ、一方で登録派遣の禁止が失業増を招くと説明されれば、とりあえず派遣法改正に反対と答えるのだ。強制された自発性を自由な選択のあかしとあえてみなそうとする、それは非情の判断といわねばならない。ワーキングプアである現時点の多くの非正規労働者は、好みの職がなければ労働市場から退出してもいいと考える「有閑マダム」ではない。
総じて派遣労働や有期雇用の規制が失業者の増加につながるという主張は、企業が雇用の質と量の決定にフリーハンドをもつことを聖域とし、その自由裁量権の規制をまったく考慮外とするものにほかならない。座れる椅子の数を増やすこと、場合によってはひとつの椅子にふたりがけすること、たとえばワークシェアリングなどは完全に彼岸視されている。そのあたりを労働組合運動は追及すべきなのである。
最後に、私なりにいくらか長期的な視点を示したい。 派遣労働者必要なことは以下の二点、派遣契約のないときでも一定の収入が保障されること、派遣会社および派遣先企業に対して労働条件・労働環境に関する発言権・交渉権が保障されることである
その観点から派遣労働者にとって望ましい雇用形態を考えるならば、ひとつは、派遣先企業での、正規雇用への移行が確実に展望できる非正規雇用である。その点では、いわゆる紹介派遣はそれなりに評価することができよう。だが、このキャリアはおそらくなんらかのワークシェアリングなしには実現がむつかしいだろう。 今ひとつは、派遣会社での、「常用」にとどまらない正規雇用(派遣仕事の有無にかかわらず一定の賃金が保障される雇用形態)だ。これが実現されれば、派遣企業は派遣先企業を取引先とする請負企業とさして変わらぬ存在となる。だが、それができるには、今の派遣会社の多くがもつとはいえないそれなりの企業体力が必要であろう。
私はそれゆえ、とくに一般労働については、派遣会社、派遣利用企業(ユーザー)、行政機関、労組のナショナルセンターなどの出資による「人材センター」のような機構の設立を考えたい。派遣労働の送り手となるそのセンターは、そこに登録する労働者の紹介派遣、仕事がないときの一定の生活費支給、多少ともスキルの必要な業種についての職業訓練などを司る。ある意味で登録型派遣の働き方そのものは認めるこの提案は、突飛に聞こえるかもしれないけれど、それはなによりも労働供給側を組織化する営みだ。そのヒントは、かつて港湾に機能していた「共同雇用制度」にある。
それに加え、「人材センター」はもとより、どの雇用主体についても、賃金、労働条件、付加給付など待遇全般に関する派遣労働者の所属組合を通じての交渉が法的に承認されるべきである。とくに仕事内容の決定は派遣先の自由に任されてはならない。








