~エッセイ~私たちの労働・生活・社会



その9 原発の復旧作業は誰が担っているのか(1) (2011.5.7記)

東日本大震災がもたらした果てしなく広く深いダメージのなかでも、特別に私たちの心を鉛を呑んだように重くさせるのは福島原発のゆくえである。

正確には人びと、大地、海のこれ以上の放射線被曝を防ぎながら福島原発を廃炉に着地させる作業をとりあえず「復旧」と呼ぶならば、その復旧の確実なプロセスや、結局は現場作業者に求められることになる献身の内容と程度はなお不明瞭なままだ。とくに作業と労働者の実態については、マスコミが近接地に接近できないためか、情報が伏せられているためか、系統的な報道は少ない。それでも、この段階でそれらにふれる断片的な情報を整理したメモは残しておきたいと思う。私がまず関心を寄せるのは、程度はともかくも放射線被曝に耐えながら、「日本」の熱い期待を背に復旧のために働いているのは誰かである。

朝日新聞(3.29)によれば、関係各社が復旧現場に派遣している人数の「判明分」は、東京電力(復旧全般)450、IHI(冷却システム復旧支援など)30、関電工(制御機器の復旧など)延べ200~300、東京エネシス(電気設備関連作業など)50、原子炉メーカーの日立(機器類の交換など)170以上、同じく東芝(仮設電源の設置など)100以上、大成建設(がれき撤去、燃料運搬など)130であった。名だたる大企業も名を連ねているが、たいていは頻繁な交代の要員を会わせた延べ人数であろう。また、東電と同じく「協力」大企業もむろん多数の下請労働者を就労させている。注意すべきことに、上に報道された派遣人数は「下請けなどを含む」のである。

一連の報道では東電の「協力会社」と「下請会社」の区別がしばしば曖昧である。しかしさしあたりその点を措けば、もともと福島原発では東電社員の4~5倍にのぼる「協力会社」の労働者が働いていた。震災前の福島原発の人員構成は、東電社員約1000人、協力会社員約4000人。また2010年7月時点では、それぞれ約1850人、約9500人だったという。震災後の復旧に携わる労働者は、公表されるかぎり、当然のことながらさすがに東電社員が多い。3月28日に敷地内に入ったのは、東電社員381人、協力会社員69人、3月30日の作業者は、それぞれ253人、50人。4月8日早朝時の構内作業員は、東電社員290人、「社員以外」62人である。もっとも、ここでも「『協力会社』社員らの詳細な稼働状況は公表されて」いないのである(以上、朝日3.29、産経ニュース3.30、共同通信4.8など参照)。


「公表」の曖昧さを差し引いても、今や東電正社員の技術者や現場労働者が復旧作業の労苦をもっぱら社員外の労働者に負わせているとはいえないだろう。とくに現場作業や事務の社員にとって、東電はおそらく僥倖に近い地元の就職先であり、あらゆる困難に耐えても守るべき職場だったに違いない。「緊急時対策本部に缶詰」の過酷な労働で心身が疲弊した46歳の事務職女性は、本社のもと上司に次のような切実なメールを送っている──所員の大半は地元の住民で「みんな被災者」で、彼女自身の両親も津波に流され未だにゆくえがわからない。実家は避難指示が出ている区域なので立ち入ることもできない。しかし「被災者である前に、東電社員としてみんな職務を全うしようと頑張っています・・・現場はまるで戦場のようでした。社員みんな心身共に極限まできています」。「今回の地震は天災です。でも、原発による放射線物質の汚染は東電がこの地にあるからです。みんな故郷を離れ、いつ戻れるかどうかもわからない・・・不安を抱え、怒りを誰にぶつけてよいのかわからない!」と(朝日3.26)。職場としての原発に対する愛着と、信頼が無残に裏切られ肉親と故郷が奪われたことへの怒りとに引き裂かれる社員のやりきれない思いが、私たちの心をうつ。

地元の東電社員はおそらく地域の人びとに、原発がもたらす経済的利益と、その絶対の安全性を説いてきたことだろう。それだけに今、「事故のことをどう説明すればいいのか言葉が見つからない」ままに福島県内の避難所で「隠れるように」ボランティアで働く社員もいる。東電も交代で35人を派遣しているという(朝日3.30)。

もちろんみずからの被曝もある。東電の報告によれば、作業員がそれまでに浴びた放射線量は、100msv(ミリシーベルト)~200msvが30人、50msv~100msvが119人、50msv未満が5628人であった(朝日4.28)。原子炉への注水や放水に従事する消防の案内をしていた50代の女性17.55msvの被曝もある。(朝日4.28)。一方、事故以来ずっと作業者の避難所である「免震重要棟」で働いていた企画広報グループの村田泰樹(44歳)は、取材に応じて、そこでの食事や休養やトイレなどの厳しい環境、安全確保のルールなどは語ったものの、約1ヶ月にわたり累積された自分自身の被曝線量については「言えません。個人情報でもありますし・・・」とかたくなに口を閉ざした(共同ニュース4.7)。被曝線量は語らないというのが従業員たる者が遵守すべき暗黙の(?)規範とされているのかもしれない。

東電労組は会社に「徹底した安全管理を」と申し入れ、現場の放射線量や作業員の健康状況などの情報提供を受けている(朝日4.3)。電力会社の企業別労組は伝統的に、危険作業をもっぱら「社員外」非正規雇用の労働者が負う体制を容認してきた──かつての組合大会では、○○作業は被曝の可能性があるので関連会社にさせてほしいという発言がきかれたものだ──けれども、いま言うところの「徹底した安全管理」の対象には下請労働者もふくまれているだろうか。ともあれ、周知のように厚労省は早くも3月末、それまでの緊急時被曝線量の上限100msvを250msvに引き上げている。東電は、100~250msvの従業員については「本人の意思を確認しながら作業にあたってもらう」としている。この引き上げが科学的にみて許容範囲にあるかどうか、私には自信がないが、500msvを超えると体内のリンパ球減少などの影響が出始めるのは確実という(河北新聞3.25)。いずれにせよ、産業医たちの診断するように、現場作業の東電社員が、被曝の危険がある作業、肉親との死別を含むみずからの被災、社員としての加害者意識、疲れのとれない居住環境など、幾重にも重なった苦しみにさいなまれ、心身を極度に消耗させていることは確かなように思われる(信濃毎日4.24)。

東電は巨額の賠償金や復旧費用を捻出するため、2012年の新規採用を見送るとともに、従業員の報酬を役員は半減、執行役員は4割減、管理職は25%減、そして平均年収758万円だった一般社員は20%減とする提案を行い、組合に了承されている(朝日4.26)。ちなみに毎月勤労統計によれば09年、「電気・ガス、熱供給・水道業」の月間現金給与総額は61.7万円で、平均35.5万円の14産業のなかずばぬけたトップである。当然の、控えめに言ってもやむをえない犠牲負担というほかはない。

そしてむろん、原発復旧の作業員についての考察では、なおその規模や実態は不明瞭ながら、下請労働者への要請を見逃すことはできない。次回はそこに立ち入る。