この映画を見て!



その13 2011年のベスト(2011.12.30記)

今回は恒例となった昨年の「ベストテン」発表である。しかし、邦画については、 前年の『悪人』や『キャタピラー』のような労作が見あたらず、近ごろ痛感する邦画の構想力、物語性、シナリオなどの貧困が際立って、まことに寥寥たる風景である。もしかすると、それは紹介される新作の概要に反応する私の感性が鈍磨しているゆえに見る邦画が少ないからであり、若い世代ならばぴんとくる結構いい作品もあるのかもしれないという気もする。とはいえ、ともかく推したいのは、昨年より前の作品で私がはじめて見たものを加えても、次の7点ほどにすぎない。三位以下の順位はおおよそのものである。

  1. 1枚のハガキ(新藤兼人)──「この映画をみて!」(その12)に紹介 
  2. (五社英雄)──1985年の作品
  3. 川の底からこんにちは (石井裕也)──「同」(その8)
  4. アントキノイノチ( 瀬々敬久)
  5. 海炭市叙景(熊切和嘉)──「同」(その8)
  6. 軽蔑(廣木隆一)
  7. 八日目の蝉 (成島出)──映画と対比させて「読書ノートから」(その9)に原作を評論

宮尾登美子の小説を原作とする『』は、大正時代の高知、芸妓・娼妓置屋を営む、やり手ながら身勝手で女たらしの富田岩伍(緒方拳)から、妻の喜和(十朱幸代)が数々の苦しみを経てついに自立にいたる物語を、五社英雄がじっくりと描き、したたかな感動を残す。一連の「岩伍もの」の白眉というべきであろう。

さだまさし原作の『アントキノイノチ』と中上健次原作の『軽蔑』はともに、心理的または状況的に特別の深刻さを抱えた若い男女の恋愛もの。岡田将生と榮倉奈々の前者は、ちょっと甘く、最後にはなくもがなのクサイ台詞はあれ、命の絆に向き合う仕事とすぐにはうまくゆかない恋のうちに、若者たちが確実に成熟を遂げてゆく姿を描いて爽やかである。高良健吾と鈴木杏の後者では、半ば自業自得の過酷な環境に引き裂かれ、ふりかかるトラブルにぼろぼろになりながら、結局は惹かれあうゆえに堕ちてゆくふたりの青春が語られる。一般的な評価は高くないけれど、好きな作品である。

一方、外国映画は、容易ならぬ歴史や社会の現実に直面する人びとの勇気と献身、やさしさと思いやりを鮮やかに掬って、ときとして愚かで臆病で弱々しい人間というものに対する究極の信頼を私たちに取り戻させる、そんな感動的な名作が例年以上に目白押しだった。あえてベストテンを選ぶ。順位はとりあえずのものにすぎない。

  1. 1.太陽に灼かれて ('94ロシア)/戦火のナージャ ('10 ロシア) ニキータ・ミハルコフ

    ──雄大な三部作の1部、2部と考えられるのでひとつに扱った 

  2. 2.ペーパーバード 幸せは翼にのって ('10 スペイン、エミリオ・アラゴン)
  3. 3.やがて来たる者へ('09 イタリア、ジョルジュ・ディリッティ)
  4. 4.愛の勝利を ムッソリーニを愛した女('09 イタリア、マルコ・ベロッキオ)
  5. 5.悲しみのミルク('09 ペルー、クラウディア・リョサ)
  6. 6.ハーツ・アンド・マインズ ('74 US、ピーター・デイヴィス/ドキュメント)
  7. 7.わたしを離さないで ('10 イギリス、マーク・ロマネク)
  8. 8.愛する人('10 US・スペイン、ロドリゴ・ガルシア)
  9. 9.英国王のスピーチ('10 イギリス、トム・フーバー)
  10. 10.バビロンの陽光('10 イラク、 モハメド・アルダラジー)

すべて私の大好きな作品ばかりで、すべて本サイト「この映画をみて!」で精粗さまざまながら紹介を試みた。すなわち、その8では作品6.(「ハーツ・アンド・マインズ」)と8.(「愛する人」)が、その9では作品7.(「わたしを離さないで」)と9.(「英国王のスピーチ」)が、その10では作品1.(「太陽に灼かれて」)と5.(「悲しみのミルク」)が、その11では作品4.(「愛の勝利をムッソリーニを愛した女」)と10.(「バビロンの陽光」)が、その12では作品2.(「ペーパーバード幸せは翼にのって」)と3.(「やがて来るものへ」)が扱われている。すべてはほとんど絶賛に近く、映画というものへのその惚れ込みようには、われながら苦笑するほどだ。そのうち、ヒロインたちが心にじんと沁む言葉を贈り贈られる愛の物語に終始する7.(「わたしを離さないで」)と8.(「愛する人」)を別にすれば、多くの作品は、それぞれの国の歴史に刻まれた過酷な圧政や戦争のなかで試される、人びとの屈せざる心の純度としたたかさを謳っている。

私たちの国の映画文化は、映画会社も、監督やシナリオライターも、いや観客である私たち自身も、いつしか、上の作品群にみるような歴史や社会の現実を凝視するなかで人びとの愛の強靱さを探るという、いわば志の高さを失っているかにみえる。良質の作品でも多くは「癒し系」にとどまる。そんなに深刻ぶることはない、日本には映画のテーマや背景にふさわしいような悲惨な歴史も深刻な社会状況もみあたらないと、みんな思っているのだろうか? 重いテーマの労作はむしろ、ごく一部の連続テレビドラマ──といってもテレビドラマはほとんど見ないので独断にも聞こえようが──に見出されるようにも思われる。昨年では、犯罪の被害者家族と加害者家族の葛藤と愛を描いた『それでも、生きてゆく』がすぐれている。ちなみに私がこの坂本裕二というシナリオライターに注目したのは、学校のいじめ問題を扱った08年の『わたしたちの教科書』から受けた深い感銘のゆえである。


いくつかのかつての名画たち

最後に、これも例によって、昨年に再見した「生涯ベスト100」クラスの名作、そのごく一部のみを厳選して列挙しておこう。若い世代が光栄にも私の推薦をレンタルビデオ店での作品選択の参考にして下さることもあると聞くからである。

邦画から入れば、小林正樹62年『切腹 』、増村保造65年『清作の妻 』(本サイト「この映画をみて!」その11参照)、李相日06年『フラガール 』、小津安二郎62年『秋刀魚の味』。洋画では、A・カイヤット57年『眼には眼を』(同上、その9参照)、D・リーン62年『アラビアのロレンス 』、テオ・アンゲロプロス04年『エレニの旅』、S・ブールギニョン62年『シベールの日曜日』(同上、その11参照)が数えられる。これらはどれをとっても語りつくせず、ここで簡単な紹介もできないけれど、いずれ他の新作との比較で論じることがあるかもしれない。