この映画を見て!



その7 2010年私のベスト(11.1.8記)

新聞の読者の投票による「ベストテン」などを見ると首をかしげることが多く、今では、私が見る映画なんてずいぶん限られており、推奨する作品もかなり偏っているのかなぁとふと不安にもなる。たしかに、徹底して興行的に流行る映画しか上映しない四日市の109シネマズなどにたまに行くと、観客はせいぜい20人というところだ。

そもそも私は、基本的にリアリズムの上に立つストーリーの説得性がある上に、登場人物の語りも忘れられず、映像的にも燦めくシーンがある作品でなければ満足できない。ひとつには過去に見た名作たちの感銘の記憶がともすれば新しい作品を物足りなく感じさせもするのかもしれない。ともあれ、昨年の例にならって、ここに2010年 私のベストをあげてみよう。下位にある佳作群の順位はおおよそのものである。


  1. ■邦画
  2. 1 悪人(李相日)
  3. 2 キャタピラー(若松孝二)
  4. 3 (ぼくんち 阪本順治 02年)
  5. 4 ばかもの(金子修介)
  6. 5 必死剣鳥刺し (平山秀幸)

  7. 佳作: ゴールデンスランバー (中村義洋)/パーマネント野ばら (吉田大八)/今度は愛妻家 (行定勲)/パレード (行定勲)
  1. ■洋画
  2. 1 カティンの森 (アンジェ・ワイダ)
  3. 2 フローズン・リバー(コートニー・ハント)
  4. 3 息もできない(ヤン・イクチェン)
  5. 4 ハート・ロッカー (キャサリン・ビグロー)
  6. 5 冬の小鳥(ウニー・ルコント)
  7. 6 パリ20区、僕たちのクラス(ローラン・カンテ)
  8. 7 セラフィーヌの庭 (マルタン・フロヴォスト)
  9. 8 この道は母へとつづく(アンドレイ・クラフチューク)
  10. 9   (アイ・アム・サム /ジェシー・ネルソン 01年)
  11. 10 クロッシング (アントン・フークア)

  12. 佳作:闇の列車、光の旅 (C・ジョージ・フクナガ)/そして、私たちは愛に帰る (ファティ・アキン)/インビクタス / 負けざる者たち クリント・イーストウッド)/誰がため (オーレ・クリスチャン・マセン)/プレシャス (リー・ダニエルズ)/17歳の肖像 (ロネ・シェネフィグ)/ペルシャ猫を誰も知らない(バフマン・ゴバディ)/ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 (ニールス・アルデン・オブレウ)

これらの作品については、ほとんどすべて、精粗の差はあれ、これまでの更新(「この映画をみて!」その1~その6)で紹介しており、どこがすぐれているか、どの点がおもしろかったかをあらためて書く必要はないだろう。唯一ふれなかったのは年末に見た『ばかもの』である。絲山秋子原作のストーリー。万事に気軽な学生のヒデ(成宮寛貴)は、10歳ほど年上の奔放な女、額子(内田有紀)に誘惑されて夢中になるけれど、結婚してあえて生活を変えようとした彼女に棄てられる。ヒデはその後、仕事(ヤマダ電機)にも、新しい献身的な教師の恋人(白石美帆)にも心を傾けることができず、アルコール中毒に陥り心身ぼろぼろになる。だが、10年ののち、治療を経て立ち直り中華料理店でアルバイトをはじめていたヒデは、不運な事故のために傷害を負って結婚生活も破綻した額子が荒野をゆくようなヒデの生活を見守り続けていたことを知り、母(浅田美代子)の励ましも受けて、僻地にひとり住む彼女を求めてゆく。こうしてまだ職業も定まらない30代のヒデと、片手を失い髪も白くなってしまった40代の額子の新しい生活がはじまる・・・。周囲の人びとのありようや長期間の生活の軌跡もふくめて丹念に描かれる、ついにはやみがたい愛に身を投じるふたりの物語は、「純愛もの」に食傷した映画ファンの私をなお感動させるに足るのである。


絶え間ない劇場通いの他、私はまたNHKのBS2やハイビジョンで実に頻繁に映画をみる。これまで見逃していた作品──なかには上記の『ぼくんち』や『この道は母へと続く』のようなベストテン入りするものもある──や、もういちど見たい作品である。後者のうち、今回はとくにイチオシの11篇をあげておこう。映画ファンを名のる若者と話すと、えっ、これ見てない? それは残念!と思うことがしばしばあるからだ。僭越ながらビデオ店で作品を探す参考にして下さればと思う次第である。

  1. (1)パーフェクト・サークル(97ボスニア)A・ケノヴィッチ//ボスニア戦争下、一セルビア人が身を挺して隣人のムスリムを懸命に助けようとする感動の物語
  2. (2)影の軍隊 (69仏)J・P・メルヴィル//なかまの処刑を余儀なくされる、その苦悩を凝視する、数あるフランス・レジスタンスのもののうちでも最高の傑作
  3. (3)セルピコ (73US)S・ルメット//ニューヨーク市警の腐敗にどこまでも抗し、いじめられ孤立させられる刑事の矜持を描く。当たり役アル・パチーノが好演
  4. (4)シテール島への船出(テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX II ・所収) (83ギリシャ)テオ・アンゲロプロス//戦中、戦後のギリシャ。政治の変動に翻弄されるひとりの誇り高い左翼の精神彷徨をみつめる秀作
  5. (5)情婦 (57US)B・ワイルダー//クリスティ原作の法廷推理もの。おもしろい!
  6. (6)戦場のピアニスト (02ポーランド)R・ポランスキー//ナチの迫害を必死に逃れようとするユダヤ人ピアニストの苛酷な体験。物語としても曲折に富む
  7. (7)誓いの休暇 (59ソ連)G・チュフライ//銃後の人びとの苦難にどこまでも優しい眼を注ぐ一兵士のはかない休暇の日々。雪解け期のソ連が生んだ珠玉の名作
  8. (8)わが谷は緑なりき (41US)J・フォード、(9)ブラス! (96英)M・ハーマン、(10)リトル・ダンサー (00英)S・ダルドリー、(11)フラガール (06日)李相日//さまざまな時代の欧米と日本。炭鉱労働社会の衰退を哀惜をもってみつめ、しかしそこから新しい行き方を模索しはじめる人びとの勇気の物語。 すべて名作である。

ときにおもしろく、ときに切実さがきわまって悲しいけれど、それぞれの分野で頂点をきわめるこれらの作品にふれる人は、誰しもが一定まぬかれないそれまでのシニカルな人間観を顧み、かわって人間というこの矛盾にみちた生きものへの愛執に近い思いにとらわれるだろう。水野晴郎がいつも言うように、いや、映画って、ほんとにすばらしいものですね。